下肢静脈瘤
ここでは学会のガイドラインや疫学データを参考にし、下肢静脈瘤の基礎知識、疫学・リスク要因、診断と治療、そして予防と生活習慣改善の各側面について解説しています。
下肢静脈瘤を知る~リスク管理と治療のポイント~
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、足の表在性静脈が弛緩・拡大し、蛇行して浮き出す状態を指します。見た目の問題だけでなく、こむら返りなどの痛みやむくみ、重だるさなどの症状を引き起こすことがあります。発症する方は、経産婦の30-40代の女性、下肢筋力が低下し始めた70代の女性が多いとされております。現代では高齢化社会の進展とともに患者数も増加しており、学会ガイドライン(日本静脈瘤治療学会など)では、患者様個々の症状や病態の重症度に応じた適切な管理が推奨されております。ここでは、下肢静脈瘤の基本的な知識から診断・治療法、さらには日常生活でどのような予防策と理学療法があるかについてご説明いたします。
1. 下肢静脈瘤とは?
下肢の血流は心臓による拍出された血液が動脈を通して送られてきます。一方で、心臓に戻っていく血液は下肢の筋力のポンプ作用と、静脈弁の構造によって重力に逆らって運ばれ、心臓に戻っていきます。下肢静脈瘤は、下肢にある表在性の静脈が弁の機能不全により逆流し、血液が下肢にうっ滞する(たまってしまう)ことで起こります。これにより、血管が拡張し、血管壁が伸び、蛇行した太く盛り上がった静脈が形成される状態です。血管が拡張することで、弁の逆流がさらに増悪してしまうため、放置すると徐々に進行していく疾患の一つです。
【主な特徴】
・外観の変化:太く浮き出た血管が皮膚表面に見られ、色は青紫や濃紺になることが多いです。
・症状:長時間の立位や座位後に「足が重い」「だるい」「痛む」といった症状が現れ、むくみやしびれが伴うこともあります。
・進行性:症状が進むと、皮膚に炎症や潰瘍が生じ、日常生活の質が低下する恐れがあります。
下肢静脈瘤は、初期段階では見た目の問題に留まる場合が多いですが、放置すると血液循環の障害に伴う皮膚炎や皮膚潰瘍を引き起こすことがあるので、早期の診断と適切な管理が重要です。
2. 下肢静脈瘤の疫学データとリスク要因
下肢静脈瘤は日本のみならず、世界中で一般的な疾患です。日本静脈瘤治療学会の資料によれば、成人の約20~30%が何らかの形で静脈瘤を有しているとされています。特に以下の点がリスク要因として挙げられます。
【疫学データ】
・性別:女性に多く、特に妊娠や出産などが影響すると考えられています。
・年齢:加齢とともに下肢の筋力の低下や静脈の弛緩が進み、70歳以上で発症する可能性が高い。
・遺伝的要因:家族歴がある場合、静脈の弁機能に影響を与える体質が遺伝することがあります。
【生活習慣・その他のリスク】
・長時間の立位または座位:仕事や日常生活において長時間の立位や座位をとると、心臓よりも足が低い位置にある時間が長く、下肢筋ポンプも機能しないため、足の静脈の負担が大きくなります。
・運動不足:下肢の筋力で静脈血流は循環が促進されるため、運動不足と下肢筋力の低下は下肢静脈瘤発症リスクを増加させる要因となります。
・肥満:体重が増えるとお腹の中の圧力が上昇し、心臓に戻っていく血液が通る静脈にかかる圧力が高まります。このため、弁の機能不全を招きやすくなります。肥満とは異なりますが、先に述べたように妊娠・出産も静脈瘤のリスクになります。これは、妊娠においてもお腹の中に胎児がいることで、妊婦の下肢血流が心臓に戻りにくくなるためです。
これらの要因は互いに重なり合い、発症のリスクを高めるため、早期の生活習慣見直しや定期検診が推奨されています。
3. 下肢静脈瘤の診断と治療
下肢静脈瘤の診断は、まず症状や既往歴、家族歴の聴取から始まり、視診・触診による臨床診断が行われます。その上で、エコー検査(超音波検査)による静脈弁の逆流の評価や、CEAP分類(Clinical, Etiologic, Anatomic, and Pathophysiologic)の活用が標準的な診断方法とされています。
【診断のポイント】
・エコー検査:立位または座位で静脈弁および、静脈血流の逆流を確認し、治療対象となる静脈の部位や程度を評価します。この際に下腿を検査者がつかむことで、筋ポンプ作用を再現して検査します。
・CEAP分類:病態の重症度や進行度を定量的に把握し、治療方針の決定に役立てます。
【治療のポイント】
治療法は、病態の重症度や患者様の生活の質に応じて決定されます。保存的療法には弾性ストッキングの着用や体重の減量、立位時間を減らす、下肢の挙上を取り入れる生活習慣を心がけることなどがあります。しかし、疾患の性質上、下肢静脈瘤の症状を抑えるために上記を継続する必要があり、やめると進行してしまうため、症状があり、手術が可能であれば、低侵襲治療である血管内焼灼術などの治療法を検討する必要があります。
【治療の流れ】
- 保存的療法:軽度の症状の場合、圧迫療法や日常生活でのケアを徹底します。
- 外科的治療:中等度以上の症状には、レーザー治療による血管内治療やストリッピング手術、小切開下の瘤切除やの硬化剤の注射による硬化療法も検討が必要です。
これらは、一人ひとりの状態に合わせて個別に治療計画が立てられます。
4. 予防と生活習慣改善のポイント
下肢静脈瘤の発症および進行は、日常生活の工夫や予防策で軽減することが可能です。学会ガイドラインでも、予防対策として生活習慣の改善が強調されています。
【日常生活の改善】
・適度な運動:ウォーキングやスクワット、足首のストレッチなど、血液循環を促進する運動を定期的に行うことが大切です。特に仕事中に長時間同じ姿勢を避け、こまめに足を動かすことが大切です。
・体重管理:適正体重を維持することにより、脚部にかかる負担を軽減し、静脈への過度な圧力を避けられます。食事バランスに注意し、過剰なカロリー摂取を控えることが重要です。
・圧迫療法の活用:弾性ストッキングは、足の血液の流れを促し、むくみや痛みの軽減に寄与します。特に症状が出始めた段階での着用は、病態の進行を遅らせる効果が期待されます。
・足の位置と休息:長時間の立位や座位が続く場合は、定期的に足を上げる、休憩をはさむなどして、血流を改善することが推奨されます。
当クリニックでは、一人ひとりの状態に合わせた包括的な診断・治療と、生活習慣改善に向けた具体的なアドバイスを行っております。下肢静脈瘤は、良性疾患であり、放置をしていても命を取られる疾患ではありません。しかし、放置すると進行してこむら返りの頻発や皮膚炎、皮膚潰瘍などの合併症を招く危険性があります。早期発見と適切な治療により症状の改善が期待でき、生活の質の向上にもつながります。気になる症状がある場合や、体の変化にお悩みの際は、どうぞお気軽に当クリニックへご相談ください。
