鼻汁
鼻汁とは
鼻汁、いわゆる「鼻水」は、鼻や副鼻腔の粘膜に炎症や刺激が起こったときに起こる症状です。鼻の中に炎症が起こると、鼻水が増えたり、鼻の通りが悪くなったりします。そのため、さらさらした鼻水や粘りのある鼻水、鼻づまり、鼻水がのどに流れる感じ(後鼻漏)といった様々な症状があらわれます。副鼻腔炎では粘膜の腫れにより分泌物がたまりやすくなり、アレルギー性鼻炎ではくしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉が中心になります。
鼻汁はありふれた症状ですが、原因は一つではありません。頻度が多いのは、アレルギー性鼻炎、かぜなどのウイルス感染、急性副鼻腔炎です。一方で、長引く鼻汁、片側だけの鼻汁、強い頭痛や顔面痛を伴う場合には、通常の鼻炎以外の病気を考える必要があります。
鼻汁が出る仕組み
アレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜に起こるⅠ型アレルギー疾患で、発作的・反復性のくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉が典型です。日本のガイドラインでも、この3つが中心症状とされています。アレルゲンに反応して鼻粘膜に炎症が起こると、早い段階ではくしゃみや水っぽい鼻水が出やすく、その後に粘膜の腫れが続くことで鼻づまりが前面に出てくることがあります。
一方、感染症や副鼻腔炎では、ウイルスや細菌に対する反応で粘膜が腫れ、分泌物が鼻腔や副鼻腔にたまりやすくなります。副鼻腔炎では、鼻汁だけでなく、鼻づまり、顔の重だるさ、頭痛、後鼻漏、咳、口臭などを伴うことがあります。
鼻汁で考えられる主な病気
1.アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎では、透明でさらさらした鼻水、くしゃみの連発、鼻のかゆみ、鼻づまりが典型的です。目のかゆみ、涙目、充血などの結膜症状を伴うことも多く、喘息との関連もよく知られています。季節性では花粉、通年性ではダニやハウスダストなどが原因になります。症状が「毎年同じ時期に出る」「掃除や寝起きで悪化する」「発熱よりかゆみやくしゃみが目立つ」といった場合は、アレルギー性鼻炎を疑います。
アレルギー性鼻炎の診断は、まず問診と鼻の診察が基本です。そのうえで、必要に応じて原因抗原を調べる検査を行います。公開されているガイドライン要約では、皮膚テストが確認検査として有用で、血液の特異的IgE検査は実用的な代替手段とされています。当院では血液検査での特異的IgEの確認をおこなっております。日本のガイドライン要約では、鼻汁好酸球や総IgEがアレルギー状態の評価に役立つとされています。
2.かぜなどのウイルス感染
かぜでは、鼻汁、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛み、咳、頭痛、軽い発熱などがみられます。CDCの公開情報では、症状は通常2〜3日ごろにピークとなり、その後徐々に軽快していくことが多いとされています。鼻汁だけでなく、のどや咳、全身症状が一緒に出る場合は、感染症の可能性が高くなります。
ただし、初期に感染症として始まっても、その後に副鼻腔炎へ移行することがあります。とくに症状が長引く、いったん良くなってから悪化する、顔面痛や頭痛が強いといった場合は、単なる「かぜ」で済ませず再評価が必要です。
3.急性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎は、鼻や副鼻腔に炎症が起こる病気で、4週間以内の経過で、にごった鼻汁や色のついた鼻汁に加え、鼻づまり、顔面の痛み・圧迫感・重だるさなどを伴う状態が目安になります。後鼻漏、咳、口臭、頭痛を伴うこともあります。
重要なのは、鼻汁の色だけで細菌感染と決めないことです。急性細菌性副鼻腔炎を疑う目安としては、「10日以上たっても改善しない」「いったん良くなったあと10日以内に再び悪化する(double worsening)」という経過が重視されています。CDCでも、多くの副鼻腔炎は抗菌薬なしで改善し、必要性は医療者が経過と症状から判断すると説明しています。このため、黄色や緑色の鼻汁があるだけで、すぐに抗菌薬が必要とは限りません。
症状が12週間以上続く場合は、慢性副鼻腔炎の可能性を考えます。慢性化すると、鼻汁や鼻づまりに加えて、においの低下が目立つことがあります。鼻茸(ポリープ)などの構造的な問題が関与することもあります。
4.そのほかに考える病気
鼻汁の原因は、アレルギーや感染症だけではありません。日本のアレルギー性鼻炎ガイドライン要約では、鼻炎は感染性、アレルギー性、非アレルギー性に分けられ、非アレルギー性鼻炎には血管運動性鼻炎、好酸球増多を伴う非アレルギー性鼻炎、薬剤性鼻炎などが含まれます。特に薬剤性鼻炎では、市販薬を含む血管収縮点鼻薬の使い過ぎが代表的な原因です。
また、片側だけから透明でさらさらした鼻汁が続く場合、特に頭部外傷のあとや、いきんだとき・前かがみで悪化する場合には、まれですが髄液漏も鑑別が必要です。
当院で行う評価と検査
鼻汁の診療では、まず「いつからか」「透明か、粘るか、膿のようか」「片側か両側か」「くしゃみ・かゆみ・目の症状があるか」「発熱、のどの痛み、咳があるか」「顔面痛や頭痛があるか」「毎年同じ時期か」といった問診が重要です。副鼻腔炎については、症状の確認と診察で診断していくことを基本としています。
アレルギーが疑われる場合は、必要に応じて血液の特異的IgE検査、総IgE、鼻汁好酸球などを検討します。アレルギー性鼻炎の診断は問診・診察が基本ですが、原因抗原の確認は治療方針や生活指導に役立ちます。
副鼻腔炎では、症状の経過と鼻の所見が重要で、画像検査がいつも必要というわけではありません。日本鼻科学会のガイドラインでは、成人の急性副鼻腔炎は症状、経過、鼻内所見で診断できることが多く、内視鏡などの局所所見が画像より優先されます。CTやMRIは、症状が強い場合、治療抵抗例、再発例、眼や頭蓋内の合併症が疑われる場合に有用とされています。当院ではこれらの検査が必要な状態と考えられる場合は耳鼻科専門医への紹介を行う方針としております。
日常生活で気をつけたいこと
アレルギー性鼻炎では、原因抗原を避けることが基本です。感染症や副鼻腔炎の予防では、手洗い、推奨されるワクチンの接種、かぜ症状のある人との濃厚接触を避けること、喫煙や受動喫煙を避けることが大切です。CDCでは、清潔な加湿器を使って室内の乾燥を和らげることも勧めています。
副鼻腔炎の症状緩和として、温かいタオルで鼻や額を温めること、生理食塩水の鼻スプレー、蒸気の吸入などが役立つことがあります。ただし、血管収縮点鼻薬は使い過ぎると薬剤性鼻炎の原因になるため、自己判断で長く続けないことが大切です。
こんなときは早めに受診しましょう
鼻汁があっても、すべてが重い病気というわけではありません。しかし、強い頭痛や顔面痛がある、いったん良くなったあとに悪化した、10日以上改善しない、発熱が3〜4日以上続く、1年に何度も副鼻腔炎を繰り返す、といった場合は受診をおすすめします。
まとめ
鼻汁は、アレルギー性鼻炎、かぜなどの感染症、急性副鼻腔炎でよくみられる症状です。透明で水っぽい鼻水はアレルギーを、長引くにごった鼻汁や顔面痛は副鼻腔炎を考える手がかりになりますが、最終的には症状の経過と診察が大切です。当院では、鼻汁の原因を丁寧に見極め、必要に応じて検査や治療、耳鼻咽喉科への紹介を行っています。
