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高血圧症

高血圧症は、日本国内だけでなく世界的にも主要な健康課題の一つです。

ゆうひ内科循環器クリニックでは専門医による高血圧症の管理を行い、二次的に発症する心血管疾患、脳卒中のリスクを可能な限り減らすことを目標にしております。

ここでは、ガイドラインや疫学データをもとに高血圧症について解説します。


1. 高血圧の定義と診断基準

日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」によると、高血圧は以下のように分類されます。

分類 診察室血圧 (mmHg) 家庭血圧 (mmHg)
正常血圧 <120 / <80 <115 / <75
正常高値血圧 120-129 / <80 115-124 / <75
高値血圧 130-139 / 80-89 125-134 / 75-84
I度高血圧 140-159 / 90-99 135-144 / 85-89
II度高血圧 160-179 / 100-109 145-159 / 90-99
III度高血圧 ≥180 / ≥110 ≥160 / ≥100

家庭血圧の測定が診察室血圧よりも重要視される傾向があり、特に早朝高血圧仮面高血圧の診断には家庭血圧の測定が推奨されています。


2. 高血圧症の疫学とリスク要因

日本国内では約4,300万人が高血圧を患っていると推定されており、これは成人の約50%以上に相当します。高血圧症は脳卒中や心筋梗塞の主要な危険因子であり、適切な管理が求められます。

疫学研究によると、血圧が120/80 mmHg未満であれば脳心血管病死亡リスクが最も低く、血圧が上昇するにつれてリスクが増加することが示されています。特に40〜64歳の中壮年者では、血圧管理によって脳心血管病死亡の**60.3%**を予防できる可能性があるとされています。

高血圧症の主なリスク要因には以下のようなものがあります:

  • 塩分の過剰摂取(日本人の平均塩分摂取量は推奨値を超えている)
  • 運動不足(適度な運動が血管の柔軟性を保つ)
  • 肥満(BMIが高いほど高血圧のリスクが上昇)
  • ストレス(交感神経の活性化による血圧上昇)
  • 遺伝的要因(家族歴がある場合、発症リスクが高まる)

3. 高血圧症の治療と管理

日本高血圧学会ガイドラインでは、治療目標として以下のような降圧目標が設定されています。

  • 一般成人:130/80 mmHg未満
  • 高齢者(75歳以上):140/90 mmHg未満(ただし、患者の状態に応じて調整)
  • 糖尿病・慢性腎臓病患者:130/80 mmHg未満

治療の基本は生活習慣の改善薬物療法の組み合わせです。
生活習慣の改善には以下の様なものがあります。

  • 減塩(1日6g未満を推奨)
  • 適度な運動(週150分以上の有酸素運動)
  • バランスの良い食事(DASH食など)
  • ストレス管理(リラクゼーションや趣味の時間を確保)
  • 禁煙・節酒(アルコール摂取量の制限)


食事の改善:減塩と栄養バランスの最適化

食事は高血圧症の管理において最も重要な要素の一つです。特に塩分摂取量の管理が重要であり、日本高血圧学会の推奨では1日6g未満が目標とされています。

減塩のポイント

  • 加工食品を避ける:インスタント食品やスナック類には多くの塩分が含まれています。
  • 調味料の工夫:塩の代わりにレモンや酢、ハーブを活用する。
  • 外食時の注意:メニュー選びの際に「減塩対応」などのオプションを活用する。

血圧を下げる栄養素

  • カリウム(ナトリウム排出を促進):バナナ、ほうれん草、アボカド
  • マグネシウム(血管拡張作用):ナッツ類、豆類、海藻
  • 食物繊維(腸内環境改善):玄米、野菜、きのこ

運動習慣の確立:有酸素運動と筋力トレーニング

運動は血圧を下げる効果があることが多くの研究で示されています。特に有酸素運動が推奨されており、週150分以上の適度な運動が目標です。

おすすめの運動

  • ウォーキング(1日30分以上):血管の柔軟性を保ち、血流を改善。
  • 水泳(週2〜3回):関節に負担をかけずに全身運動が可能。
  • ヨガ・ストレッチ(毎日5〜10分):副交感神経を活性化し、血圧を安定させる。

筋力トレーニングの注意点

高血圧の人は過度な負荷の筋トレを避けることが推奨されています。スクワットや軽いダンベル運動など、低負荷・高回数のトレーニングが適しています。


ストレス管理:自律神経の安定化

ストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させる要因となります。特に慢性的なストレスは高血圧のリスクを高めるため、適切な管理が必要です。

ストレス軽減の方法

  • 深呼吸・瞑想:1日5分の呼吸法で副交感神経を活性化。
  • 趣味の時間を確保:読書、音楽、アートなど、リラックスできる活動を取り入れる。
  • 十分な休息:仕事の合間に短い休憩を取り、心身の負担を軽減する。

睡眠の質向上:血圧の夜間変動を抑える

睡眠不足は高血圧のリスクを高めることが知られています。特に睡眠時無呼吸症候群は血圧上昇の原因となるため、適切な睡眠環境を整えることが重要です。

良質な睡眠のためのポイント

  • 寝る前のスマホ・PC使用を控える:ブルーライトがメラトニンの分泌を妨げる。
  • 規則正しい生活リズム:毎日同じ時間に寝る・起きる習慣をつける。
  • 快適な寝具を選ぶ:枕の高さやマットレスの硬さを調整し、快適な睡眠環境を作る。

高血圧症の管理には、日々の生活習慣の積み重ねが重要です。食事、運動、ストレス管理、睡眠の質向上を意識しながら、無理なく続けられる方法を取り入れていきましょう。


高血圧症の薬物療法は主にACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬が使用され、状況に応じて選択されます。日本高血圧学会のガイドラインや最新の研究をもとに、降圧薬の種類や作用機序、副作用について解説します。

降圧薬の種類と作用機序

高血圧の治療に用いられる降圧薬は、主に以下の6種類に分類されます:

降圧薬の種類 作用機序 主な薬剤
カルシウム拮抗薬 血管の平滑筋を弛緩させ、血管を拡張する アムロジピン、ニフェジピン
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB) 血管収縮を促すアンジオテンシンⅡの作用を阻害 ロサルタン、テルミサルタン
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬) アンジオテンシンⅡの生成を抑制し、血管拡張を促す エナラプリル、ペリンドプリル
利尿薬 体内の余分な水分と塩分を排出し、血圧を低下させる フロセミド、ヒドロクロロチアジド
β遮断薬 心拍数を抑制し、心臓の負担を軽減する プロプラノロール、ビソプロロール
α遮断薬 血管の収縮を抑え、血圧を低下させる ドキサゾシン、プラゾシン

これらの薬剤は、患者の状態や合併症に応じて単独または併用して使用されます。


降圧薬の選択基準

日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では、降圧薬の選択基準が示されています。
一般的に、以下のような基準で薬剤が選択されます:

  • 第一選択薬:カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬
  • 併用療法:単剤で十分な降圧効果が得られない場合、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる
  • 合併症の有無
    • 糖尿病合併 → ARBまたはACE阻害薬が推奨される
    • 心不全合併 → β遮断薬やACE阻害薬が有効
    • 慢性腎臓病合併 → ARBまたはACE阻害薬が腎保護作用を持つ

降圧薬の選択は、患者の年齢、生活習慣、合併症の有無などを考慮しながら決定されます。


降圧薬の副作用と注意点

降圧薬にはそれぞれ特有の副作用があり、適切な管理が必要です。

降圧薬の種類 主な副作用
カルシウム拮抗薬 顔のほてり、動悸、頭痛
ARB 高カリウム血症、めまい
ACE阻害薬 空咳、高カリウム血症
利尿薬 脱水、低カリウム血症
β遮断薬 心拍数低下、倦怠感
α遮断薬 立ちくらみ、低血圧

特にARBやACE阻害薬は腎機能に影響を与えるため、定期的な血液検査が推奨されます。
また、カルシウム拮抗薬はグレープフルーツとの相互作用があり、摂取を避ける必要があります。


4. 今後の展望と研究

高血圧症の管理は、個別化医療の進展によりさらに精密化されています。最近の研究では、遺伝子解析を活用した高血圧のリスク評価や、AIを用いた血圧管理の可能性が検討されています。
近年、配合剤(異なる作用機序の薬剤を1つの錠剤にまとめたもの)の開発も進んでおり、多剤服薬の抵抗感が減ることが期待され、患者負担を軽減しながら効果的な血圧管理が可能になります。

また、日本循環器学会では、高血圧症と心血管疾患の関連についての新たなガイドラインを発表し、より包括的な治療戦略を提案しています。今後は、個別化治療デジタルヘルス技術の活用が進むことで、より効果的な高血圧管理が可能になると期待されています。


高血圧症の治療は患者の状態に応じた適切な生活習慣指導と薬物療法の選択・管理が重要で、専門家による適切な治療が必要な疾患のひとつです。適切な管理によって二次的に起こる心疾患や脳疾患を予防し、リスクの軽減ができます。日々の生活習慣を見直し、健康的な血圧管理を心がけましょう。

 

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