蕁麻疹
1. 蕁麻疹の疫学と発症の背景
蕁麻疹は、日本人の約10〜20%が一生に一度は経験するとされる、非常に一般的な皮膚疾患です。年齢や性別を問わず発症しますが、20〜40代の女性にやや多い傾向があります。
発症のきっかけはさまざまで、感染症、ストレス、薬剤、食物、温度変化、摩擦などが関与することがあります。ただし、慢性蕁麻疹の約7割は原因が特定できない「特発性」とされており、患者さんの多くが「なぜ出るのか分からない」状態に悩まされています。
蕁麻疹は大きく分けて以下の2つに分類されます:
- 急性蕁麻疹:発症から6週間以内に自然に治まるもの
- 慢性蕁麻疹:6週間以上、ほぼ毎日症状が続くもの
また、寒冷・温熱・圧迫・日光・運動などの刺激で誘発される「刺激誘発型蕁麻疹」もあります。
代表的な原因は以下の通りです:
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食べ物(エビ、カニ、ナッツ、卵、保存料など)
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薬剤(抗生物質、解熱鎮痛薬など)
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感染(風邪、胃腸炎などに伴って)
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寒冷、日光、圧迫、運動、発汗などの物理的刺激
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精神的ストレスや疲労
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特定の原因がない体質的なもの(特発性)
特に慢性蕁麻疹では、明確なアレルゲンが見つからないケースも多くあります。
2. 主な症状と特徴
蕁麻疹の最大の特徴は、突然あらわれるかゆみを伴う赤いふくらみ(膨疹)です。これらの膨疹は数時間以内に跡形もなく消えるのが典型的で、同じ場所に長くとどまることはありません。
主な症状:
- 皮膚が赤く盛り上がる(膨疹)
- 強いかゆみ
- チクチクした痛みや熱感を伴うことも
- 膨疹が融合して大きな地図状になることも
また、唇やまぶた、喉などが腫れる「血管性浮腫」を伴うこともあります。これは皮膚の深い部分に炎症が起こるタイプで、喉に起こると呼吸困難を引き起こす可能性があり、緊急対応が必要です。
3. 蕁麻疹の病態と原因
蕁麻疹は、皮膚の中にある「マスト細胞」が刺激を受けてヒスタミンなどの化学物質を放出することで発症します。これにより、血管が拡張し、血漿成分が漏れ出すことで膨疹が形成され、かゆみが生じます。
主な発症メカニズム:
- I型アレルギー反応(食物・薬剤など)
- 物理的刺激(摩擦、寒冷、日光など)
- 自己免疫的な反応(自己抗体によるマスト細胞の活性化)
- 原因不明の特発性反応
慢性蕁麻疹では、自己免疫的な機序が関与しているケースもあります。
4. 治療法とセルフケア
蕁麻疹の治療は、症状のコントロールと再発予防が中心です。原因が特定できる場合は、その除去や回避が最優先となります。
基本的な治療の流れ:
- 第2世代抗ヒスタミン薬の内服(眠気が少なく、安全性が高い)
- 効果が不十分な場合は:
- 抗ヒスタミン薬の増量
- 他の抗ヒスタミン薬への変更
- 抗ロイコトリエン薬やH2ブロッカーの併用
- 難治性の場合:(専門医への相談が必要です。)
- オマリズマブ(ゾレア®):抗IgE抗体製剤
- デュピルマブ(デュピクセント®):IL-4/IL-13阻害薬
- シクロスポリンなどの免疫抑制薬(専門医の管理下)
セルフケアのポイント:
- かゆみが強いときは冷やす(ただし寒冷蕁麻疹では逆効果)
- ストレスや疲労を避ける
- 刺激の強い衣類や入浴、飲酒を控える
- 症状日記をつけて悪化因子を把握する
蕁麻疹についてのよくある質問
Q1. 蕁麻疹はうつりますか?
A1. 蕁麻疹そのものは感染するものではありません。風邪などのウイルス感染がきっかけになることはありますが、人にうつることはありません。
Q2. 検査は必要ですか?
A2. 原因が明らかでない場合は、血液検査やアレルギー検査を行うこともあります。慢性的な場合や、他の病気との関連を疑う場合におすすめです。
Q3. 何科を受診すればよいですか?
A3. 内科でも診察・治療可能です。当院でも対応しますので、まずはお気軽にご相談ください。必要がある際は専門医療機関に紹介を行っております。
最後に
蕁麻疹は一見軽い皮膚トラブルに見えるかもしれませんが、慢性的に続くと生活の質(QOL)を大きく損なう疾患です。原因が分からないことも多く、不安を感じる方も少なくありません。多くの場合、適切な治療でしっかりコントロールできます。特に慢性的に繰り返すタイプでは、自己判断だけで対処せず、医師の判断による治療継続が大切です。当院では、症状の出方や生活背景をお伺いしたうえで、治療を行ってまいります。必要時はアレルギー専門家へと紹介を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
